転機
20年間勤め続けた会社を退職した。
将来を見据えてというわけではなく、やむを得ず に近い。
考える時間もないまま慌ただしく引継ぎをし、連夜の宴会が続き、最後の日が終わった。
40歳代初めの時である。
退職後1日目
嵐の後の静けさで頭の中が真っ白になり、何も考えられなかった。
家から一歩も出ず、食事もとらず、呆けたようになったまま1日が過ぎた。
2日目
やり遂げられなかった仕事に対する未練、これからどうしようという恐怖感におそわれ、涙が出た。
買い物に出た時、外の風景が白黒に見えた。
3日目
やらなければならない退職後の手続きがごまんとあることに気づき、とりあえずそれを片づけようと行動を開始した。
玄関のドアを開けた途端、まぶしい光が差し込んできた。いつもの風景、隣の家の色とりどりのバラの花が目に入った。
夜になって、未練も恐怖もすっかり忘れて、まっすぐ前を見ていたことに気づいた。
どうやら私は挫折を味わっても3日で立ち直れる人間だったらしい。
その後は私の生活も心境もがらりと変化した。
今までの私は会社と家庭しか知らず、狭い世界で生きてきた。
生まれ変わったように、いろいろなイベントや会合に参加し、さまざまな人と出会い、その都度いっぱい考えた。
そして天職と思える現在の仕事にも巡り合えた。
私は時々考えることがある。
もしあの時、会社を退職することなく定年まで働いたとして、その後の私に何が残ったのか。
不満や不安を抱えたまま、長い貴重な時間を無駄に使ってしまっていたかもしれない。
それを思うと、あの辛かった出来事は神様が与えてくれた転機というほかない。
だからこそ20年の会社員時代は、現在の私の大きな糧になっている。
めまぐるしかった40歳代を終え、50歳代半ばに差し掛かった今、私は今までにない充実した日々を過ごしている。
そしてこれから次の転機を、今度は楽しみながら切り開いていきたいと思う。